玉手箱
乙姫はきっと
彼を誰にも渡したくなかったんだ。
だけどすがってまで
残ってほしいとも思えなかった。
だから老人にした。
私以外の人をもう抱けないように
私の思い出だけを深く刻み付けて
残りの人生を終えてほしかった。
それは怒りや嫉妬に似てるし
身勝手な自己満足のようでもある。
分かるよ、乙姫。
ただ寂しかったんだよね。
愛していたんだよね。
そして玉手箱は決別と決意の箱。
老いて絶望の淵に立った老人が
後悔してまた戻ってきたところで、
心はきっともう二度と揺るがない。
そして彼も二度と戻りたいとは思わない。
自分を守るため、彼を守るため。
さようならの箱を愛する人に渡すとき
彼女はどんな顔してたのかな…
多分きっと笑顔だったんじゃないかな。